第4回 飛騨市古川町黒内地区

開催日
2010年2月28日
参加者数:
11名

黒内の庄屋様

今回のお手入れ対象のお宅は飛騨市古川町のリンゴ畑が広がる黒内地区のお宅です。かつてはこの地区の庄屋様だった旧家の家屋は、間口十一間・奥行き十間。一般的に現代建築の家屋よりも間口などの規模が大きいと言われる古民家の中でも、このお宅はかなり規模が大きくその外観はちょっとした体育館のような大きさです。そしてこの家屋の歴史は古く、大正○年に同じ飛騨市の河合地区から移築されてきたもので、元々建てられていた年代をさかのぼると築100年をはるかに超える歴史のある家屋です。その佇まいからは、建築当時かなりの財を成した家であることが窺えますが、家屋の大きさや迫力の中にも優しく柔らかな印象と時間の流れが感じられます。

玄関には立派な大戸が掲げられ、そのくぐり戸を入ると二重の土間があります。この土間は地面を踏み固めて硬くした「つちだ」でできていて、現代の玄関に見られるコンクリートやタイル張りには無い昔ながらの風合いが今もそのままに残されています。入ってすぐの土間の左側は受付のようなつくりになっており、かつての家主が庄屋様だった時代の年貢の徴収や、寄り合いがこの家で行われた際の受付に使われたスペースでした。その奥の本玄関には吹き抜けがあり、2階からの明かりが差し込んで内部の大きな空間がぐっと広がります。その玄関から天井付近を見上げるとケヤキの中丑(丑桁)と土路丑(丑梁)がどっしりと構え、同じくケヤキの立派な建具が取り囲みます。中丑は玄関の左側の座敷の部分まで掛けられて、その端は太い大黒柱で支えられています。

今回のお手入れは、この玄関の壁板・千枚戸・板戸・中すき戸・中丑・土路丑、座敷の大黒柱板戸・鏡さし・板戸・2階への階段です。家のどの部材も普通の民家より一回り大きい今回のお手入れは、ツヤツヤに磨かれた家にも負けず、ボランティアで集まってくださった大工さんたちのチームワークが光る!お手入れとなりました。

今回のお助け隊員

今回のお手入れには日本全国からそして地元飛騨市から若手の大工さんが5人、そして飛騨の風景に心癒されたい女性にご参加いただきました。

今回の作業では、普段より天井が高いため、高めの脚立に足場板を組んで足元が不安定な中、若い大工さん達が普段のお仕事さながらの身軽さで作業をこなしていただきました。一度拭き終わった箇所から次のお手入れ箇所に足場を組むときも、周囲の建具や柱にキズをつけないよう、慎重に脚立を移動させます。私たち素人のスタッフにはとても考えられないほどの丁寧かつスピーディなその仕事は、「伝統的な木造建築の勉強をしたい」といった共通の参加目的意識からうまれるチームワークに他なりません。一拭きするごとにくっきりと際立つケヤキの木目に、うっとりと見とれるそのまなざしには、ただ単に美しいと言うだけでなく、現代ではとても希少で暴れやすく(ねじれたり狂いやすい)扱いにくい木材を、これほどまでに見事に家の中心部材として使用した飛騨の匠への敬意が伺えました。ボランティアの女性は足場を使わない低い位置の建具のお手入れを担当。建具と言ってもこの大きなお宅ではその大きさも大人が腕を広げてもまだ足りないような大きいものばかりでしたが、時間をかけて心をこめてじっくりと、ピカピカに磨いていただきました。

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また、今回大活躍だったカゲの主役は、家主のお孫さんの中学生の男の子でした。まずボランティアの皆さんに寒い思いをさせないよう囲炉裏で上手に炭をたき、お手入れに使うクルミを丁寧に割って中のみをきれいに取り出していただきました。梁などの空拭きの際に下に落ちたほこりを掃除して、なるべくきれいな場所でボランティアの方にお昼ご飯を食べてもらえるよう気を遣ってくださいました。お助け隊がお手入れに来たことで、将来この立派な家を担っていく世代にこの家のお金には変えられない豊かさと価値を気づいていただくきっかけになったのではないでしょうか?

お昼ごはんの雰囲気

午前中いっぱいを使って作業を済ませたあとは、恒例の豚汁ランチタイムです。囲炉裏をお助け隊全員とご家族で囲み、奥様に作っていただいた美味しい豚汁や、お手製のよもぎと栃餅を頂きました。家主の方には家の歴史や、当時のこの地区の様子などを語っていただき、終始なごやかな雰囲気でお助け隊を完了することができました。

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